以下のような症状がございましたら当院にご相談下さい。
頭痛は当院を受診される患者さんに最も多い主訴の一つです。頭痛は病気の名前にもなっていますが、様々な病気で現れる症状でもあります。大きくわけて一次性頭痛と二次性頭痛に分類されますが、命に関わるような危険な頭痛は二次性頭痛になります。二次性頭痛では重篤な病気が隠れている可能性が高いため、頭痛症状がある方で頭部の画像検査を受けられたことがない場合にはMRI検査などの検査を受けることが勧められます。
頭痛という症状そのものが病気であるものを言います。外来でみる代表的なものは片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の3つです。
20-40歳代の女性に多い、片側、拍動性の中等度から重度の頭痛です。持続時間は患者さんによって様々で、閃輝暗点というキラキラする光・点・線などが見える症状や運動麻痺(脱力)を伴うこともあります。片頭痛の原因として、セロトニン・グルタミン酸・ヒスタミン・一酸化窒素などの神経ペプチドと呼ばれる物質が関与していると言われていますが、明確な原因は未だ明らかにされていません。
一時性頭痛の中で最も多い頭痛です。女性に多く、両側で圧迫感・締め付け感と例えるような軽度から中等度の頭痛です。頭痛の頻度は様々で月1回未満という患者さんもいます。吐き気を伴うことはなく、一般的に嘔吐することもありません。頚部の筋肉の圧痛(筋肉の凝り)が関係していると言われていますが原因はこれのみではなく、明確な病態は明らかにされていません。
20-40歳代の男性に多い、片側に起きる頭痛です。患者さん自身の言葉を借りると「眼の奥を刺される・眼の奥をえぐられる」というような頭痛です。頭痛と同側の眼の充血・涙が出る・鼻閉感・瞼の浮腫み・顔の発汗・瞼が下がるなどの自立神経症候を伴うことがあります。頭痛が起こる時期を群発期と言いますが、群発期では同じ時間帯に頭痛症状が起こることが特徴的です。
脳出血やくも膜下出血などの脳卒中、脳動脈解離、髄膜炎や脳炎などの炎症、脳腫瘍などの病気があり、その症状としての頭痛のことを言います。二次性頭痛の場合、頭痛の原因として重篤な病気が隠れているため、MRIやCTなどの画像検査が必須になります。
高血圧が原因で起こる高血圧性脳出血が代表的です。高齢者ではアミロイド血管炎という血管の炎症で起こる脳出血もあります。頭痛症状を伴うことが多いですが、ほとんどの場合、片麻痺(手足が動きにくい)や失語(言葉がでない)、高次脳機能障害(認知症のように話が噛み合わない、何となく普段と様子が異なる)、意識障害などの神経症状を伴います。出血が拡大した場合には命に関わるため、入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
脳動脈瘤の破裂などで脳と包むくも膜と脳の間に出血が広がる病気です。脳動静脈奇形の破裂などでも起こります。また、頭部外傷に伴って起こるくも膜下出血は外傷性くも膜下出血と言います。突然発症する重度の頭痛で、患者さんによっては「バットで殴られたような頭痛」とおっしゃる方もいますが、重傷のくも膜下出血では意識障害を伴い受け答えができない状態になります。脳出血よりも重篤な状態のため、入院可能な病院に紹介し即日入院、出血源に対して早期に外科的な処置が必要となります。
血縁関係の方でくも膜下出血のご家族がいらっしゃる方の場合、脳動脈瘤が発見されることが多く、MRI検査(特に脳血管を調べるMRA検査)を受けることが勧められます。
日本人では椎骨動脈という動脈に多い病気です。血管の壁が剥がれる(解離する)ことで起こるやや特殊な頭痛です。40-50歳代の男性に多く、突然発症する後頭部を中心とした頭痛です。程度は軽度~重度と様々であり、発症したことに患者さんが気づかないこともあります。ゴルフなどのスポーツ中や整体中に起こすことが多いことが知られており、解離した血管の壁が薄くなり動脈瘤が形成された場合、破裂することでくも膜下出血を引き起こします。診断にはMRI検査が必須となり、診断された場合には入院可能な病院に紹介し、場合によっては経過観察入院となります。
細菌やウイルスによる感染症のことを言います。脳そのものに感染して炎症が起こる状態を脳炎と言います。しかし、実際には髄膜炎といって脳を包む髄膜(硬膜、くも膜、軟膜)に炎症が起こる方が頻度としては多いです。細菌感染による髄膜炎を細菌性髄膜炎、それ以外の要因による髄膜炎を無菌性髄膜炎と言います。細菌性髄膜炎の方が症状は重く、命に関わることもあります。頭痛に加えて発熱や嘔吐、項部硬直(あごを引くと頭痛が悪化し、頚を曲げることができなくなります)がみられることが一般的です。
抗生物質の点滴が必要になるため、入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
脳腫瘍と一言で言っても様々な種類の脳腫瘍があります。頭痛の原因になるほどの脳腫では、かなり大きいものが多いです。これは腫瘍により頭蓋内(頭蓋骨に囲まれた脳が収まっている空間)の圧力が上がり(頭蓋内圧亢進と言います)、頭痛症状を引き起こします。腫瘍の大きさや部位にもよりますが、専門的な治療が必要になるため、総合病院の脳神経外科に紹介し、検査を進めて治療方針を決めることになります。
めまいも当院を受診される患者さんに多い症状の一つです。めまいと一言で言っても、眼前がぐるぐると回っている回転性めまいや足元がふわふわする浮動性めまいなど、めまいという症状も一つではありません。回転性めまいは成人であればどの年代の方にも起こりうる症状で、強い吐き気と嘔吐を伴うことが多いです。一方、浮動性めまいは加齢に伴い増加し、慢性の浮動性めまいは高齢の患者佐さんによくみられます。
めまいの原因となる病気としては、良性発作性頭位めまいや前庭神経炎、メニエール病、椎骨脳底動脈循環不全症、小脳の脳出血や脳梗塞、脳腫瘍、その他などがあります。
比較的頻度の高いめまいです。典型例として、起床時に起き上がろうとした際に眼前がぐるぐる回転する、寝返りで横を向くと眼が回る、玄関で靴ひもをしめて立ち上がると眼が回ると、いうのがあります。これは内耳にある三半規管という体の回転を感じ取る期間に耳石が入り込んでしまうことが原因とされています。この耳石を三半規管から追い出してしまえば症状は改善するとされ、耳鼻咽喉科ではエプリー法という耳石置換法という治療を行います。めまいと吐き気、嘔吐症状が強い場合には、入院可能な病院に紹介し入院加療をお願いすることになります。
突然起こる激しい回転性のめまいで、1週間から10日程度続きます。良性発作性頭位めまいのように頭の位置には関係なく持続して起こるめまいです。眼振といって眼が揺れるような症状を伴うことがあることが特徴の一つです。前庭神経は橋という脳の一部と前庭という平衡感覚を感じ取る器官をつないでいます。感冒症(風邪)のようなウイルス感染症の後に起こることが知られており、前庭神経に炎症が起こることで、脳が平衡感覚に異常があると感じ取りめまいが生じることになります。激しい回転性めまいがおさまった後も浮動性めまいが続くことが多いです。
内耳にある蝸牛という聴覚に関係する器官の障害が原因です。蝸牛の中には外リンパ腔、内リンパ腔という部分がありますが、内リンパ腔内にある内リンパが過剰となる(内リンパ水腫といいます)ことで同じ内耳にある三半規管や前庭が障害を受けてめまいが生じる病気です。聴覚に関する器官の障害であるため、耳の閉塞患や難聴(低い音が聞こえにくい)、耳鳴を伴うことが多いです。
椎骨動脈および脳底動脈という脳の血管の血液循環が悪くなることでめまいが生じる病気です。高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を抱えて動脈硬化が進んでいる方の方が、血液循環は悪くなる可能性が高いです。首を回すことで椎骨動脈に一時的なねじれが生じることも血液循環が悪くなる原因となります。これらの血管は小脳や脳幹という脳の血流を養っているため、めまい(浮動性めまい)に加えて呂律が回らない、物が二重に見える(複視といいます)、顔の麻痺や顔の感覚異常も伴う可能性があります。
前述の三半規管や前庭からの情報は前庭神経を通って脳幹という部分にある前庭神経核に伝わります。また、小脳からも前庭神経核に向かって神経がつながっており、小脳は前庭神経核に対して抑制性に働くことで平衡感覚機能を調整しているとされています。このため小脳が障害を受けるとこういった機能の調整が障害され、めまいが生じます。小脳に起こる脳出血や脳梗塞は、小さいものでも病変が広がった場合には命に関わる危険なめまいです。小さな脳出血や脳梗塞は問診や神経症状の診察のみでは完全に否定できず、MRI検査が必要となります。これらの病気がみつかった場合には入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
脳腫瘍がめまいの原因となることもあります。上術の通り小脳や脳幹の脳機能に障害を受けるとめまいを自覚するため、大きな脳腫瘍により小脳や脳幹が圧迫された場合には浮動性めまいを自覚することがあります。脳腫瘍そのものに対する専門的な治療が必要になるため、総合病院の脳神経外科に紹介し、検査を進めて治療方針を決めることになります。
これまでに述べた以外にも起立性低血圧(立ち上がったら血圧が低下する)や貧血、脱水症、高血圧、低血糖などもめまいの原因となります。血液検査や血圧測定といった比較的簡単な検査で診断可能です。
しびれも脳神経内科/外科を受診される代表的な症状の1つです。手や足の指先だけのしびれもあれば体も含むもの、顔面のみのしびれなど様々です。しびれの原因は皮膚の感覚を司る神経が圧迫されることで起こります。神経を損傷した場合にはむしろ感覚鈍麻(感覚が鈍くなる)が起こります。この感覚神経がどこで影響を受けるかによって中枢神経(脳や脊髄)が原因なのか末梢神経(脳・脊髄につながる神経)が原因なのかに分けられます。中枢神経でも脳が原因の場合には片側の症状に限られますが、脊髄が原因の場合には両側に症状がみられます。中枢神経が原因の場合には早期診断、早期治療が必要な危険なしびれであることが多く、しびれがある場合にはMRIやCT検査で脳や脊髄に原因となる病変がないか確認する必要があります。
脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などにより大脳の感覚野と呼ばれる部分、もしくは視床と呼ばれる感覚神経が走行する部分が影響をうけることで起こります。小さな脳梗塞や脳出血の場合にはしびれの症状のみで見つかることもあります。小さくても病変が拡大した場合には大きな後遺症が残る可能性が高く、入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
背骨(脊椎骨といいます)は加齢とともに変形がすすみやすく、骨棘という骨の棘が形成されることで脊柱管という脊髄が通るスペースが狭くなり、脊髄が圧迫されることがあります。この場合、しびれが起こりやすくなります。
我が国の指定難病になっている病気です。後縦靭帯とは背骨(脊椎骨)のうち椎体と言う部分のすぐ後ろ側を上下に走行している靭帯です。この靭帯が何らかの原因で骨化することがあり、それに伴って脊柱管が狭くなることで脊髄が圧迫されることでしびれや手足が動かしにくいなどの症状が起こります。50歳代以降の中年男性に多いです。
脳と同様に脊髄にも脊髄梗塞が起こることはありますが、その頻度は極めて低いです。脊髄の中に出血する髄内出血も非常にまれです。
脊髄の血管奇形(脊髄動静脈奇形、脊髄動静脈瘻など)がある場合には本来の脊髄の血液潅流が障害され、うっ血が起こることでしびれや手足が動かしにくいなどの症状が起こりますが、これらは稀な病気です。
脊髄の中にできる腫瘍(脊髄髄内腫瘍といいます)でも同様の症状が起こります。また、 脊髄は背骨(脊椎骨)で囲まれた脊柱管というスペースを通っており、脳と同様に脊髄も硬膜という膜で包まれています。硬膜と脊髄の間にできる腫瘍(脊髄硬膜内髄外腫瘍といいます)でも脊髄が腫瘍で圧迫されて同様の症状が起こります。ただし、これらの脊髄腫瘍の頻度も脳腫瘍と比べると低く、めったに見かけることはありません。
顔面の感覚は三叉神経という神経を介して脳に伝わります。三叉神経が脳腫瘍などで圧迫される場合、もしくは三叉神経そのものから発生する脳腫瘍がある場合には、片側の顔の感覚が鈍くなったりしびれたりします。
手の感覚を伝える感覚神経は脊髄(特に頚髄といって首の部分の脊髄)に合流します。例えば、指先の感覚を伝える神経は指先から手首、肘、肩を通って首まで至り脊髄に合流するため、この途中で神経を圧迫するような要因があれば、患者さんはしびれ症状を自覚することになります。後述する手根管症候群、肘部管症候群、胸郭出口症候群など病気は神経絞扼疾患と呼ばれ、骨の変形や筋肉などにより神経が通るスペースが狭くなり神経が圧迫されることで起こる代表的な病気です。また、背骨(脊椎骨)は加齢に伴う変形が起こりやすく、背骨と背骨の間を通る神経が変形した骨で圧迫されることも多いです。お薬で治療を行いますが、症状の改善が得られない場合には手術を行うこともあります。
[手根管症候群]
神経絞扼疾患の中で頻度の高い病気です。人差し指、中指、と親指の一部の感覚は正中神経という神経で中枢へ伝わります。手首から手のひらにかけて正中神経が通る手根管という空間(トンネル)があるのですが、この空間が狭くなることで正中神経が圧迫されることこの3本の指でしびれる、という病気です。病気が進行すると親指の根元(母子球といいます)が痩せてきます。40-50歳代の女性に多く、明け方にしびれ症状が強くなることが多いです。お薬で治療を行いますが、症状の改善が得られない場合には手術を行うこともあります。
足の感覚を伝える感覚神経も手と同様に脊髄(特に腰髄といって腰の部分の脊髄)に合流します。手の時と同様にこれらの神経が圧迫されることで起こります。代表的なものとしては背骨(脊椎骨)と背骨の間の緩衝剤の役割を果たす椎間板という軟らかい組織が変性して飛び出してしまう椎間板ヘルニアが起こると、飛び出た椎間板で神経が圧迫されて足のしびれや痛みが起こります。坐骨神経痛といって片側のおしりから太ももの裏にかけてのしびれ・痛みがでる病気が代表例です。これ以外にも頻度は低いですが足根管症候群といって手での手根管症候群と同じような病気もあります。お薬で治療を行いますが、症状の改善が得られない場合には手術を行うこともあります。
顔の感覚は三叉神経という神経を介して脳に伝わります。この三叉神経が何らかの要因で圧迫を受けると「三叉神経痛」という病気を引き起こします。多くは小脳を栄養する上小脳動脈ないしは前下小脳動脈という正常の血管が三叉神経に当たることが原因ですが、脳腫瘍が三叉神経を圧迫することで起こる場合もあります。
症状としては顔面のみの痛みで, 顔面神経痛とは言わず、三叉神経痛と言います。人によっては歯茎の近くが傷むため、最初に歯科を受診される患者さんも多いです。典型的なものは電撃痛といわれるように、顔の一部分にビリッと電気が流れたような痛みが走ります。朝起床後、顔を洗おうとして冷たい水がかかった時や、寒い冬に冷たい風が顔にかかった時に強い痛みを自覚される方が多いです。
三叉神経痛は常に痛い状態が続くわけではありません。ただ、電気が走ったような強い痛みがいつでるかわからないため、患者さんは恐怖を覚えます。お薬で痛みをブロックする治療から初めて、ガンマナイフのような定位放射線治療(三叉神経を放射線で焼くような治療です)、さらにはどうしても痛みのコントロールがつかない場合には手術を行います。
顔の筋肉は顔面神経という神経によって支配されています。脳からの刺激が顔面神経を介して顔の筋肉に伝わることによって、おでこの皺よせ、瞼を閉じる、笑うなどの表情が作られます。しかし、脳からの信号がないのに顔の筋肉が動いてしまうことがあります。これを「顔面けいれん」といいます。先ほどの三叉神経痛の時と同様に顔面神経の根元に前下小脳動脈や後下小脳動脈といった正常の血管が当たることによって神経が刺激を受けることで、不随意的に(意図せずして)顔の筋肉(特に頬の筋肉)がピクピク動きます。
顔面けいれんも常に症状があるわけではなく、間歇的に見られることが多いです。接客業や人前にでて話をするなどストレスがかかった時に症状は出やすいようです。
顔面けいれんは生命に影響するような病気ではありませんが、人前に出られなくなるため治療を希望される方が多いです。特に本人が気にされないのであれば治療を行わない場合もあります。
お薬による治療から始めますがけいれんのコントロールがつきにくく、手術を行うことが多いです。
顔面の麻痺ですが、正しくは顔面神経麻痺と言います。顔面神経麻痺もよくみかける症状の1つです。軽い症状であれば、鼻唇溝といって鼻と口の間の皺が浅くなったりするだけですが、重度になると口が閉じきれずうがいをすると口の端から水が漏れる、瞼が閉じきらず目が乾燥して痛い、笑ったりしなくても顔が左右非対称になる、といった症状が見られます。また、頻度は低いですが味がしない、涙や唾液がでにくいなどの症状を伴うこともあります。
顔面神経が障害を受けることで麻痺するため、何によって障害されるかで原因が異なります。中枢神経(脳)が障害されて起こる顔面神経麻痺を中枢性、末梢神経(顔面神経そのもの)が障害されて起こる顔面神経麻痺を末梢性といいます。
脳出血や脳梗塞などの病気で脳のうち手足・顔の運動に関与する運動野という部分が受けるときに起こります。末梢性顔面神経麻痺との違いは、おでこのしわ寄せができるかどうかになります。顔の筋肉は片側の運動野によって制御されていますが、おでこのしわ寄せは両側の運動野によって制御されているため、中枢性顔面神経麻痺の場合にはおでこおしわ寄せができます。これに対して末梢性顔面神経麻痺の場合はおでこのしわ寄せもできません。
最も多いのは特発性顔面神経麻痺です。特発性(とくはつせい)とは医学的に原因が不明なものを言います。発見した人の名前からベル麻痺とも呼ばれ、最近ではヘルペスウイルスが関係しているのではないかと言われています。突然発症し、2日以内に麻痺のピークを迎えます。ひどいものだと完全麻痺に近い状態にまでなることもあります。
次に多いのはRamsey-Hunt(ラムゼイハント)症候群です。これは帯状疱疹にかかった後に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが顔面神経の神経節(神経のふしのような部分です)に到達して活性化し、顔面神経を障害して起こる病気です。
この2つで顔面神経麻痺の約80%を占めますが、他に、頭部外傷や脳腫瘍、耳下腺腫瘍などでも顔面神経麻痺が損傷を受ける、圧迫されるため、顔面神経麻痺が認められることがあります。
頭部外傷は年齢に関係なく起こります。ただ単に頭を打っただけの単純な頭部打撲から、意識が悪く呼び掛けにも反応しないような重症なものまであります。また、頭や顔に傷がある場合には、傷の大きさや深さにもよりますが縫合といって傷を縫って閉じる処置が必要になります。浅い傷の場合にはテープで傷の端と端を寄せて閉じることもあります。顔のような目立つ場所は専用の細い糸で縫い、髪の毛が生えている場所は医療用のホッチキスで縫合します。
小さなお子様の場合、頭を打ってかしばらく時間が経ってから気持ち悪くなって吐くことが度々みられますが、傾眠といって眠そうな状態であったり、何度も繰り返し吐いたりする場合を除いて経過をみて頂いて問題ありません。高齢の方の場合には脳が委縮し脳の血管が脆くなっていることもあり、頭部打撲に伴って頭の中に出血していることがあり、CTやMRI検査が勧められます。以下に代表的な病気をあげてみます。
硬膜という脳を包む正常の膜と脳の間(つまり硬膜の下)に出血して血液がたまる病気です。直接血液で脳が圧迫されるため、意識が悪くなり、麻痺や失語(言葉がでない)といった症状を伴いやすく、命に関わる病気です。検査で急性硬膜下血腫が見つかった場合には、入院可能な病院に紹介し即日入院となります。出血量が多い場合には緊急手術になります。
硬膜下血腫と似ていますがこちらは硬膜の外(つまり硬膜と頭蓋骨の間)に出血して血液がたまる病気です。一般的には交通事故や階段から転落するなどで頭蓋骨の骨折を伴うことが大半です。硬膜外血腫は硬膜ごと脳を圧迫するため硬膜下血腫ほど強い症状はでにくく、最初は元気なことが多いです。しかし、時間が経つにつれて遅れて意識が悪くなってくるのが特徴的です。急性硬膜外血腫の場合も入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
急性硬膜下血腫と似ていますが慢性期の血腫になります。一般的に頭部を打撲してからある程度時間が経ってから(多くは1か月前後以降)硬膜と脳の間に血液がたまる病気です。脳から硬膜へつながる静脈を打撲の衝撃で損傷するためゆっくりとした静脈性の出血が起こることが原因の1つと考えられていますが、明確な原因は未だ明らかにされていません。高齢の患者さんに多く、お子様や若い方で起こることはまずありません。溜まった血液の量と脳がどれぐらい圧迫を受けるかにより様々な症状が起こります。軽い頭痛から、片側の不全麻痺(動かせるけど反対側と比べると何となく重い)、歩くとふらふらする、言葉がでにくいなど、脳梗塞や脳出血で見られる症状と似ています。中には、(ご家族からみて)何か普段と違うような気がする、認知症が進んだような気がする、といった症状のこともあり、あまりに脳が強く押された場合には意識が悪くなり眼も開けられなくなります。
溜まった血液量が少なければお薬で治療可能な場合もありますが、ここに挙げたような症状が既にある場合には手術が必要となります。お薬で治療する場合を除き、入院可能な病院に紹介し、手術を行います。
くも膜下出血という名前の通り、脳を包むくも膜(硬膜よりもさらに脳側にある膜)と脳の間に出血し血液が溜まる病気です。高齢の患者さんの頭部打撲で比較的多く見られます。脳動脈瘤の破裂などによるくも膜下出血と比べると出血量も少なく、予後もよいのですが、強い頭痛症状を伴います。少量であれば時間の経過とともに洗い流されて消えますが、出血量が多い場合には脳血管攣縮(血管の周りに広がった血液によって血管が縮こまり流れが悪くなる病気)を引き起こし、二次性の脳梗塞を起こすことがあります。入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
頭を打つことで脳そのものが傷む病気です。脳挫傷だけであれば強い痛みもなく、麻痺や意識が悪くなるといった症状は出にくいですが、多くの場合は脳挫傷に加えて挫傷性脳出血(いたんだ脳に出血する)を伴うことが多く、いたんだ脳の場所によって様々な症状が起こります。また、痙攣などに代表されるてんかん発作を起こす原因となります。
スケートボードやスノーボードで転倒して頭を打った、ラグビーやアメリカンフットボール、相撲などの接触を伴うスポーツで頭を打った場合に起こる病気です。頭痛・めまい・吐き気・目がかすむ・記憶がないなどの症状を起こすことがあり、短時間の意識消失(周りの人が呼びかけても反応がない)を伴うこともあります。脳挫傷や外傷性くも膜下出血などを同時に起こしている可能性があり、MRIなどの画像検査が強く勧められます。軽症であれば経過観察でよいですが、重傷の場合には入院可能な病院に紹介となります。スポーツの場合、競技に復帰できるタイミングは意識消失の有無や持続時間、健忘症(記憶障害)の有無や持続時間などで変わります。
首が痛くなる代表的な病気は、交通事故で後方から別の車に追突された時に起きるいわゆるムチ打ち症です。これはシートベルトで体を固定されている状態で、自由に動く頭だけが突然前方に押し出されることで、急に頚部の筋肉が引き伸ばされることで起こります。正式には頚椎症や外傷性頚部症候群と言い、通常、受傷時よりも時間が経過してから症状が酷くなる傾向にあります。
③でも説明していますが、両側の手ないし手と足がしびれる、力が入らない場合には注意が必要です。両側の症状がある時には原因が脊髄にあると考えられます。特に⑥とも関係しますが、両手に荷物をもった状態で歩行中に受け身がとれずに前向きに転倒した時に多く、おでこを打つことで首が過剰に伸展される(あごが上がった状態になる)ため、脊髄が脊柱管の中で瞬間的に強く押され脊髄損傷を起こすことで見られる症状です。通常足まで動かないということはありませんが、多くは両手の握力が低下する、手が握りにくい、指先が使いにくい(巧緻運動障害と言います)、両手(腕も含めて)がしびれるなどの症状がみられます。診断にはMRI検査が有効で、診断が確定した場合には入院可能な病院に紹介し、即日入院、頚椎カラー(あごと肩で首を支える固定具)を装着し、リハビリテーションを行います。首の曲げ伸ばしに伴い背骨(脊椎骨)が前後に動く(不安定性がみられる)場合には緊急手術が行われます。
バイクなどの二輪を運転中の交通事故の場合、背骨(脊椎骨)の骨折や背骨のズレ(離断)などを伴う重症の脊髄損傷が起こることがあります。この場合には脊髄のどの部分が損傷したかによって両足だけの症状なのか、体と両足だけなのか、両手と体と両足なのか症状がでる場所が変わります。頭に近い部分を損傷するほど重症になります。この重症の脊髄損傷は現代の医学では未だ治療が困難であり、車いす生活や寝たきり生活を余儀なくされる患者さんもいます。世界的にも再生医療の研究が進んでいますが、研究成果が期待される病気の1つです。
これらは専門的には片麻痺、感覚障害、失語、構音障害、高次脳機能障害といい、脳卒中を強く疑う症状です。一般的には脳出血、脳梗塞、くも膜下出血の3つを合わせて脳卒中と言い、脳梗塞の一歩手前の一過性脳虚血発作(一時的にこれらの症状がでるが時間が経過すると症状がなくなる病気)も含まれます。脳神経内科もしくは脳神経外科の医師であれば症状から脳卒中であることは予想できますが、脳出血か脳梗塞かまでは検査を行わなければわかりません。脳出血は文字通り血管に孔があいて血液が血管外に漏れる病気で、血圧を下げることで出血をおさえる対処が必要になります。脳梗塞は逆に何らかの要因で血管が詰まってしまうことで血液が流れなくなり、脳が壊死する病気です。脳梗塞を発症したばかりであれば血圧を高めに維持することで、詰まった血管の先に少しでも血液を流すようにする必要があります。一刻を争うような症状、病気ですので、すぐに救急車を呼んで病院を受診して下さい。脳出血や脳梗塞は治せる病気ではありません。すでに発症した時点で脳が破壊される(脳出血)、壊死する(脳梗塞)ため、これらの部位の脳の機能は戻りません。そのため機能の改善を目指すためにリハビリテーションを行い、生きている他の脳で死んでしまっている脳の機能を代用することになります。脳卒中は発症したら手遅れ、発症しないための予防が重要です。
なお、くも膜下出血は一般的に急激な頭痛を伴い、これらの症状は出にくいため、ここでは除外します(①頭痛の欄をご参照下さい)。
高血圧が原因で起こる高血圧性脳出血が代表的です。高齢者ではアミロイド血管炎という血管の炎症で起こる脳出血もあります。頭痛症状を伴うことが多いですが、出血によって脳が壊れるため、出血した脳の部位によって様々な神経症状を伴います。頻度が高いものは片麻痺(手足が動かない)、片側顔面神経麻痺(顔が麻痺している、口から水がこぼれる)、失語(言葉が話せない)、高次脳機能障害(認知症のように話が噛み合わない、左右どちらか一方が見えていないように振る舞う)などがあり、出血量が多い場合には意識障害も伴います。出血が拡大した場合には命に関わるため、入院可能な病院に紹介し即日入院となります。
脳梗塞は前述の通り、脳の血管が何らかの要因で詰まり血液が流れなくなることによって脳が壊死する病気です。血管がつまったけれども再開通した、もしくはつまりかけていたけれども完全にはつまらなかった場合には症状が一過性で元に戻ることがあり、この状態を一過性脳虚血発作と言います。一過性脳虚血発作が繰り返しみられる場合には、近々脳梗塞を起こしますよという警告であるため、注意が必要です。脳梗塞は血管がつまる原因によっていくつかに分類されます。
[心原性脳塞栓]
心房細動という不整脈をもっていると心臓内の血液の流れがよどみ、血の塊が形成されます。この塊(血栓といいます)が血液の流れに乗って首の血管を通過し、補足枝分かれした脳の血管につまることで起こります。突然、急激に発症するため症状も重いことが多いです。このタイプの脳梗塞の場合、血栓溶解療法(つまった血の塊を薬で溶かす)や経皮的血栓回収(カテーテルをつまった血管まで進めて物理的に血栓を回収する)といった治療が有効なことが多いです。前者は発症してから4.5時間以内という決まりがあるため、症状がでたら早期に検査を行い、診断を確定させて治療に移ることが重要です。心房細動は高齢の患者さんに多いため、高齢者に比較的おおいタイプの脳梗塞です。
[アテローム血栓性脳梗塞]
高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症などの生活習慣病のある方、喫煙や飲酒歴のある方に多い脳梗塞です。これらの生活習慣病が長年続くことで血管の内側の壁に(内膜といいます)プラークが発生して血管が狭くなり、徐々に進行することで血液の流れが悪くなり、狭くなった部分に血液の塊が形成されることで起こる脳梗塞です。このタイプでは経皮的血栓回収がうまくいかないことが多いです。再発の予防のためにも生活習慣の改善は必須です。
[ラクナ梗塞]
穿通枝と呼ばれる、脳の太い血管から枝分かれした細い血管が閉塞することにより起こります。細い血管の閉塞によるため壊死する脳の領域も小さく、症状は軽いことも多く、無症候性ラクナ梗塞といって無症状のこともあります。その反面、壊死した部位が小さくてもそれが運動機能に関係する神経が走行している場所であれば完全麻痺となることもあります。アテローム血栓性脳梗塞に似ていますが、特に長年の高血圧や喫煙による動脈硬化(血管が硬くなること)が危険因子となっており、高血圧の改善、禁煙が必須になります。
[特殊な脳梗塞]
上記以外の脳梗塞として、ESUS(塞栓原不明脳塞栓症)やトルソー症候群(癌がある患者さんにみられる脳梗塞)などがあります。
たくさんの症状をまとめてあげましたが、これらはいずれも脳神経という神経に何らかの影響がでているとみられる症状です。脳神経は左右1本ずつ、12種類の合計24本あります。嗅神経、視神経、動眼神経、滑車神経、三叉神経、外転神経、顔面神経、蝸牛/前庭神経、舌咽神経、迷走神経、副神経、舌下神経の12種類です。
例えば視力が落ちた、視野の一部が見えにくくなったというのであれば、眼そのものの病気(緑内障など)以外に、視神経(と視神経と脳の視覚領域をつなぐ視索・視放線という神経)に障害がある可能性があります。各神経が障害された時の症状と、その原因を以下にまとめました。
脳神経の種類 | 障害された時の症状 | 障害の原因 |
---|---|---|
嗅神経 | 匂いがしない | 頭部外傷脳腫瘍 |
視神経 | 眼が見えにくい視野が欠ける | 頭部外傷眼窩内腫瘍脳腫瘍(特に下垂体腺腫) |
動眼神経 | 瞳孔が開く(黒眼の部分が大きく拡大する)瞼が開かない(眼瞼下垂)眼が上/内側に動かない二重に見える | 頭部外傷脳動脈瘤眼窩内腫瘍脳腫瘍糖尿病 |
滑車神経 | 眼が下に動かない下をみると二重に見える | 頭部外傷眼窩内腫瘍脳腫瘍糖尿病 |
三叉神経 | 顔の感覚が鈍い痺れる顔が痛い舌や口の中の感覚が鈍い噛みにくい | 脳腫瘍 |
外転神経 | 眼が外側に動かない二重に見える | 頭部外傷硬膜動静脈瘻眼窩内腫瘍脳腫瘍糖尿病 |
顔面神経 | 顔が動かない瞼が閉じない口から水がこぼれる味がしにくい | 頭部外傷脳出血脳梗塞脳腫瘍耳下腺腫瘍 |
蝸牛/前庭神経 | 耳が聞こえにくい眼が回る | 神経の炎症脳腫瘍 |
舌咽神経 | 舌の感覚が鈍い味がしない | 脳腫瘍頚部腫瘍 |
迷走神経 | 飲み込むとムセる声が枯れる | 脳腫瘍頚部腫瘍 |
副神経 | 肩が上がらない首が痩せる | 脳腫瘍 |
舌下神経 | 舌が出にくい | 脳腫瘍 |
障害の原因に注目して頂くとほぼ全ての神経で脳腫瘍があげられているのがわかると思います。脳腫瘍のうち、脳組織そのものではなく脳を包む硬膜や脳神経そのものに腫瘍が発生した場合にこれらの症状が認められます。ですので、こういった症状があればMRI検査を行い、脳腫瘍がないかを確認することが勧められます。また、頭部外傷でも嗅神経や眼の動きに関係する神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)、顔面神経の障害が起こりますし、糖尿病の患者さんでも二重に見える(複視といいます)を訴えられることがあります。
脳腫瘍はたくさんの種類がありますが、比較的頻度の高い腫瘍は髄膜腫(ずいまくしゅ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、神経膠腫(しんけいこうしゅ)の4つになります。神経膠腫以外の3つは一般的に良性の腫瘍(ごく一部に悪性のものがあります)です。
髄膜腫は脳を包む髄膜(特に硬膜)から発生するとされており、硬膜がある場所であればどこでもできる可能性があります。当然、脊髄の硬膜からも発生しますし、中には脳室という脳の部屋の中にできることもあります。腫瘍が発生する場所によって圧迫される脳組織や脳神経は異なるため、上記の表に挙げたほとんどの症状がみられる可能性があります。大きな髄膜腫でこれらの症状を伴う場合には手術になります。
下垂体腺腫も比較的頻度の多い脳腫瘍です。脳下垂体という体のホルモンバランスを調整している正常組織の脇に発生する腫瘍です。大きくなることで正常の下垂体を圧迫するためホルモンが不足することがあります。また下垂体腺腫の中には特定のホルモン(成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン)を産生する機能性腺腫と呼ばれる腫瘍もあります。この場合には逆に血液中のホルモンが過剰になるため、成長ホルモンであればあごの先端がとがったり眉毛部の骨が前方に飛び出てきたり、指輪や靴のサイズが合わなくなったりします。プロラクチンであれば妊娠していないのに乳汁(おっぱい)がでたり、生理がこなくなったりします。甲状腺刺激ホルモンであればドキドキする(動機)や汗が出る(発汗)、イライラする、手が振るえるなどの症状が見られますし、副腎皮質刺激ホルモンであれば皮膚にピンク色の線が見える、手足は細いのに体だけ太る、顔がむくむ、毛が生える(多毛)、にきびができるなどの症状が見られます。機能性腺腫では糖尿病など他の病気を合併することがあり、プロラクチンを産生する腫瘍以外は手術が必要になります。下垂体腺腫は増大すると視神経と視交叉(両側の視神経が合流して交叉する場所)を下から圧迫するため視野が欠けます。特に両眼の外側の視野が欠けるのが特徴的(耳側盲と言います)です。
神経鞘腫は末梢神経の鞘(シュワン細胞)から発生する腫瘍です。特に多いのは前庭神経鞘腫と三叉神経鞘腫です。頻度は低いですが迷走神経鞘腫や舌咽神経鞘腫、動眼神経鞘腫、顔面神経鞘腫もあります。また、脊髄につながる末梢神経からも発生するため、脊髄にも見られます。
最も多い前庭神経鞘腫の場合には耳が聞こえにくくなります(聴力低下、難聴)、これは前庭神経と並走している蝸牛神経(聴力を伝える神経です)が腫瘍により圧迫するためです。前庭神経そのものの症状であるふらつきを自覚されることもあります。2番目に多い三叉神経鞘腫では顔面や口の中、舌の感覚鈍麻や感覚異常、しびれなどの症状が起こります。動眼神経鞘腫では瞼が上がらない(眼瞼下垂と言います)や眼の動きの制限(眼球運動障害といます)、二重に見える(複視と言います)などの症状が、顔面神経鞘腫だと顔の麻痺が見られます。大きな神経鞘腫の場合には手術で摘出することが多いです。
脳腫瘍の中で一般的には悪性腫瘍に分類される腫瘍です。ここに挙げた他の腫瘍とは異なり脳そのものに発生します。なので、腫瘍が増大していくと発生した脳の部位に一致した症状が認められます。たとえば脳の中でも手足や顔面の運動を支配する運動野という場所に発生した場合には徐々に手足が動きにくくなります。脳出血や脳梗塞との違いは、腫瘍は1日や2日といった短期間で急激に大きくなるわけではないため、症状がゆっくりと現れ、ゆっくりと悪化するという点です。脳出血や脳梗塞はいきなり症状がでるため、患者さんはいつから症状があるかはっきり答えられることが多いです。MRI検査を行えば、鑑別できることが多いのですが、画像所見が似ている場合もあり、患者さんへの問診による情報収集は重要です。神経膠腫の場合、視野が欠けるという症状を除けば上記の表に記載した脳神経の症状が認められることはありません。
悪性腫瘍に分類される腫瘍ですが、腫瘍により悪性度が異なります。世界保健機関によって悪性度のグレードが1から4まで分類されています。3や4の場合には生命予後に関わるため、他の臓器の癌と同様に早期診断、早期治療が勧められます。手術を行った後に抗がん剤による治療(化学療法)と放射線治療を追加するのが一般的です。
上にあげた症状があれば認知症が疑われます。認知症は何らかの病気があって脳の機能が低下することで起こる病気です。治することは難しく、現代の医学をもってしても認知症の症状が進行するのをお薬で遅らせることが精いっぱいで、早期に認知症と診断して治療を開始することが重要とされています。我が国では平均寿命が延びて高齢化が進んでいることで、認知症を患う患者さんが増加しており社会問題となっています。厚生労働省によると2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。以下に認知症の原因となる病気をいくつかあげてみます。
認知症の中で最も多く、患者数も増えている病気です。男性よりも女性に多いとされており、脳が変性、萎縮することで物忘れなどの症状が進むとされています。正確な原因は明らかにされていませんが、アミロイドβというタンパク質が溜まることで神経細胞が変性するのではないかと言われています。初期の頃は脳のうち海馬という記憶に関係する部位の委縮が起こるため物忘れが見られますが、時間の経過とともに頭頂葉という部分の脳の委縮が進み、箸を使って食事をする、服を着替えるとったことができなくなる(失行といいます)、左右がわからない(失認といいます)、道に迷って家に戻れない・徘徊する(地誌的障害といいます)などの症状がではじめます。最終的には脳全体が委縮してあまり動かなくなりしゃべらなくなります。
通常の加齢に伴う物忘れとの違いは、加齢に伴う物忘れの場合、忘れる内容が一般常識や後から覚えた知識であるのに対してアルツハイマー型認知症の場合、自分が体験したことを忘れます。このため、家族旅行などの思い出などを忘れてしまいます。また患者さんが認知症ではないかと心配になって外来を受診されますが、加齢に伴う物忘れであれば、忘れていることを認識して心配になります。しかしアルツハイマー型認知症では忘れていることを自覚していません。このため生活に大きな支障がでます。これが大きな違いになります。
脳出血や脳梗塞により脳が損傷することで、その後に起こる認知症です。アルツハイマー型認知症とは異なり、脳出血や脳梗塞で損傷した脳の部位により症状が変わるため、まだら痴呆とも言われます。喫煙習慣や高血圧など、動脈硬化が進む危険因子を長年抱えている方は注意が必要です。予防が重要であるため、早くからの禁煙や血圧コントロールなどが勧められます。
これら以外の病気としてレビー小体型認知症、前頭側頭側認知症などもあります。また、アルツハイマー型認知症ほどの症状ではありませんが、最近のことを忘れる(短期記憶障害)、物事への関心が失われるなどの症状がみられる病気として正常圧水頭症があります。
[正常圧水頭症]
60-70歳代の高齢者に比較的多い病気です。脳と脊髄はその内部(脳室)と周囲を脳脊髄液という液体で満たされています。この脳脊髄液に関しては産生部位、排出(吸収)部位、循環に関して詳しいことは明らかにされていません。脳室と呼ばれる脳の部屋の中には元々脳脊髄液が満たされていますが、この脳脊髄液が過剰になることで起こる病気が正常圧水頭症です。脳(頭)に水が溜まるので水頭症とう名前がついています。典型的な症状としては歩きにくい(歩幅が狭くなる歩行障害)、おしっこを漏らしてしまう(尿失禁)、認知症があります。3つの症状が揃う患者さんは少なく、歩行障害で見つかることが多いです。MRI検査で診断することができます。脳脊髄液の過剰な貯留が原因であるため、この液体を減らすことで治療が可能です。残念ながら現在まで手術でしか治療はできません。脳脊髄液が溜まっている脳室や脊髄周囲の空間と別の空間(多くは胃や小腸・大腸などが収まっている腹腔というスペース)を管でつなぐシャント手術という治療を行うのが一般的です。